【追悼】ムヒカ元大統領がピースボートで語った“本当の豊かさ”|船上で聞いた心震えるスピーチ

世界一貧しい大統領の訃報に、胸が締めつけられた
2025年5月13日、ウルグアイの元大統領ホセ・ムヒカ氏の訃報が世界中を駆け巡りました。まずは、ご冥福をお祈りします。
「世界一貧しい大統領」として知られた彼は、生涯を通じて人間らしい生き方と“本当の豊かさ”を問い続けてきた人物です。
SNSでは「涙が止まらない」「あの国連のスピーチを思い出した」という声が続々と上がっています。
実は私misoは、そんなムヒカ元大統領がピースボートに乗船し、実際に船内でスピーチをしてくれた時に、その場で直接話を聞くことができた一人です。
そして実際に彼に会い、「世界一貧しい大統領」が「世界一心の豊かな大統領」とも言われる、その理由に納得したんです。
今回はその時の体験を振り返りながら、ムヒカ氏が私たちに残してくれた“言葉の遺産”を共有したいと思います。
ムヒカ元大統領とは?

「世界一貧しい」けれど「世界一心が豊かな」リーダー
ホセ・ムヒカ氏は、1935年生まれのウルグアイの政治家であり、2010年から2015年まで同国の大統領を務めました。日本で広く知られるようになったのは、2012年の国連「持続可能な開発会議(リオ+20)」でのスピーチがきっかけです。
リオ会議でのムヒカ氏の言葉は、特に先進国の人々にとって耳の痛くなる言葉だらけ。
- 「私たちは開発しに来たのか?それともこの地球を幸せにするために来たのか?」
- 「貧乏とは少ししか持っていないことでなく、いくらあっても満足しないこと」
──この問いかけは、世界中の人々の心を揺さぶりました。
ムヒカ氏は、大統領在任中、給料の約9割を寄付し、大統領官邸には住まず、郊外の質素な農場で愛犬と暮らしていたことから、「世界一貧しい大統領」と呼ばれました。しかし、彼の言葉や行動からはむしろ「心が世界一豊かなリーダー」という印象を受けた人も多いはずです。
彼の価値観は、「物質的な豊かさ」ではなく、「人としてどう生きるか」に重点を置いたものでした。
ムヒカ氏の強烈なメッセージは、「人生で一番大切なものは何か」「本当の豊かさとは何か」という人生の本質を考えるきっかけを与えたのです。
結果、今では「世界一貧しい大統領」や「ペペ」の愛称で広く世界に知られる存在となっています。
ムヒカ元大統領がピースボートに乗った理由
「平和」と「対話」を信じて、海の上へ
ホセ・ムヒカ元大統領がピースボートに乗船したのは、2017年の地球一周の船旅クルーズでのことでした。彼は特別ゲストとして招かれ、ウルグアイ停泊中にピースボートの船の上へとサプライズで来てくれました。
なぜ、元大統領という肩書を持つ彼が、ピースボートのような船に来てくれたでしょうか。
それは、ムヒカ氏が「平和」「環境」「人権」「対話」など、ピースボートが大切にしてきた価値観に深く共感していたからです。ピースボートは世界中の港を巡りながら、現地の人々と出会い、歴史や今起きている問題について「対話」することを大切にしている船。ムヒカ氏の人生観と、この船の理念は不思議なくらい重なっていたのだと思います。
「ウルグアイの元大統領がスピーチをしに船に来るってよ!」
それはあまりにも突然の知らせでした。当時私はムヒカさんの存在も、国連の有名なスピーチも知らず(笑)(無知って怖いですね…)
正直「誰だっけそれ??でも元大統領ってなんだかすごそう!」と思い、スピーチを聞くために観光を早めに切り上げて船に戻ってきました。
そして彼は、乗船者に向けてこう語りました。
ピースボートでのホセ・ムヒカ氏のスピーチ全文
下記は私がピースボート乗船当時、ムヒカさんのスピーチ後に船内新聞で配られた、スピーチ全文の書き起こしです。公式HPと少し言い回しが違う部分もあるかもしれませんが、ある意味当時最速での情報になります^^

日本の友だちの皆さま、ウルグアイにお越しいただきありがとうございます。
ようこそウルグアイへ。
ここには350万の人がいて、牛の数はその4倍います。
この国は人口は少ないですが、南米でもっとも公平な国だといえます。
この国は1916年、南米で最初に女性が離婚できる権利と男女平等選挙を実現させた国です。
ウルグアイは小さな国ですが、100年前から教育を公的機関がおこなっており、
まだ決して完全ではありませんが、差別や人権問題も少ない国です。
1人当たりの肉の消費量は世界一、コレステロールいっぱいの国です(笑)
ここに来たら、世界一美味しいお肉が食べられます。
ピースボートは日本から平和と平等、人権のために、
そして性別の平等性、非核の大切さを世界に運び、めぐる船です。
その活動を私も応援しています。
もし考えが違う人たちから、理解をされないときがあっても、頑張ってください。
これからの世代、未来の世代へむけて、いまこの地球の自然を守ること、お互いの紛争をなくすことは私たちの責務です。
テクノロジーの爆発と消費主義により、世界中で苦しみ、戦争で亡くなっているのは、一番貧困な立場にある人たちです。
(大統領だったのに質素な暮らしをしているため)私と妻は、「変わっている」とよく言われますが、
誰よりも思っていることは、モノをたくさん持たずにシンプルな人生を送りたい、ということです。
それは、命、そして人生を愛しているからです。
命を大切にするということは時間を大切にすること。
時間とは買えないものであり、人生の時間はスーパーでは買えません。
お金でモノを買うときは、あなたの人生を使ったお金を使っていて
お金を生まれさせるためのお金を払っているのです。
そのお金に惑わされないでください。
そのお金を使いすぎると、人生の時間がなくなってしまいます。
利益とマーケットが一番ではなく、その上に人生、命があるのです。
私たちの人生の闘いは、時間を持ち、その時間でお互いの気持ちを確かめ合うためのものなのです。
子どもや友だちのため、そして人生を愛するために時間はあります。
日本は美しい。
けれども、それよりも美しいものは、この地球の、この惑星そのものの美しさなのです。
世界の人びとはみんな兄弟なのです。
黒人、白人、黄色人種‥
そうゆうものは関係なく、あるのはひとつ、人間である
ということだけなのです。
人に受け入れられるためだけ生きるのではなく、自分の思うことをやってみてください。
そして、SDGs(国連の持続可能な開発目標)のすべての目標達成のためにがんばってください。
皆さん本当にありがとう。
(2017年1月25日 ピースボートクルーズ モンテビデオ寄港船上にて ホセ・ムヒカ前ウルグアイ大統領)
心震えるスピーチ──目の当たりにして何を感じた?

上記のムヒカ元大統領のスピーチは、ピースボートの船の後方デッキ、ウルグアイの自然とその暮らしが見えるその場所でおこなわれました。
スピーチの最初には、ウルグアイは人間よりも牛が多いんだ・コレステロールいっぱいの国なんだ(笑)なんてことも、朗らかに笑いながら語り、とても和やかな人なんだなと感じました。
彼の言葉一つひとつは不思議なほどに力強く、静かに、私たちの心を深く揺さぶりました。
当時感じたことを、いくつかピックアップして書き記しておきます。
「命を大切にするということは時間を大切にすること。時間とは買えないものであり、人生の時間はスーパーでは買えません。」
この言葉を聞いた瞬間、私はドキッとしました。
忙しさやお金に追われながら過ごしていた日常が、ふと遠くに感じられたのを覚えています。
ピースボートに乗ってきているみんなは、いままさにそれを求めている人が多いなと感じたからだと思います。
また彼はこうも言いました。
「お金を使いすぎると、人生の時間がなくなってしまいます。利益とマーケットが一番ではなく、その上に人生、命があるのです。」
これは、資本主義や効率主義が行きすぎた現代社会への問いかけでもありました。
でも、それを怒りや否定ではなく、愛と希望のメッセージとして届けてくれたのがムヒカ氏だったのです。
スピーチの中では、ウルグアイという国の紹介や、ピースボートへの共感にも触れてくれました。
「ピースボートは日本から平和と平等、人権のためにそして性別の平等性、非核の大切さを世界に運び、めぐる船です。その活動を私も応援しています。」
この言葉は、なにか意味を持ってピースボートに乗ってきている人はもちろん、何気なく世界一周してみたくて乗ってきた、そんな人も含め、「私が世界を旅することには意味があるんだ」と勇気づけてくれる言葉でした。
そんな未来を担う私たち向けて、さらにこう力強く励ましてくれました。
「人に受け入れられるためだけ生きるのではなく、自分の思うことをやってみてください。」
それはまるで、「あなた自身の人生を生きていいんだよ」と背中を押してくれるような言葉でした。今の私にとっては、さらに身に染みる言葉となっています。
当時から8年以上経った2025年の今改めて考えてみると、さらにその状況は加速しているんじゃないか?という虚しさを感じるとともに、「では“今”の世界をムヒカさんはどう感じていたのか?」を聞いてみたかったな・いまならどんな言葉を投げかけるのだろう?、と思います。
今あらためて思う、ムヒカ氏が遺してくれたもの
──生き方を問う声は、今も私の中に響いている
ムヒカ元大統領のスピーチを船上で直接聞いてから、私の中で「豊かさ」の定義が変わりました。
それまでは、漠然と「もっと稼ぎたい」「何か大きなことをしなきゃ」と思っていた私にとって、
「命を愛するからこそ、シンプルに生きる」
という彼の哲学は、まるで心にすとんと落ちてくる「真実」でした。
社会が「もっと速く、もっと多く」を求める中で、
“ゆっくり生きる勇気”や、“時間を大切にするという選択”が、こんなにも豊かだったのか
と気づかせてもらえたこと。
それは、ムヒカ氏が遺してくれた何よりの財産です。
あのスピーチをともに聞いた仲間たちと、夜遅くまで語り合った日々は今でも一生の宝です。そして何年経ってもこの思い出を一緒に話せる仲間がいる、そんなピースボートの船の上でスピーチを聞けたことは幸運でした。
正直当時はそんなに深くこのスピーチを掘り下げることはなかったのですが、後になって「自分はこれから、どう生きたい?」と自分に問いかける時に、ふとムヒカさんの言葉を思い出すことはよくあります。
──あの船の上での体験は、今でも人生の「原点」のひとつです。
そして2025年、彼の訃報を聞いてあらためて感じたのは、
ムヒカ氏のメッセージは「終わった言葉」ではなく、
これからを生きる私たち一人ひとりへの“宿題”として、今も生き続けているということ。
どうか、今日この記事を読んでくれたあなたが、
「豊かさ」や「人生」について、ほんの少しでも立ち止まって考えてくれたら──
それは、ムヒカ氏への最大の追悼になると私は思います。
↓ピースボートの船上で太鼓演舞を見るムヒカ夫妻

さいごに
ムヒカ元大統領の名言・スピーチは、今なお多くの人の人生を照らしています。
船上で彼の言葉に触れたひとりとして、その想いを伝え続けていけたらと思います。
何年もピースボートに関わったり、世界を旅していて思うのは、戦争や巨大な自然の猛威を止めるほどの力は私1人にはないけれど、でも誰か1人にでもこういった思いを伝えていけたらということ。みんながその「小さなアクション」からでもおこしてみれば、変わるのかな?と信じてみたくなりました。
「世界一貧しい大統領」が教えてくれたのは、人生で本当に大切なものでした。
あなたにとっての「豊かさ」とは何ですか?
私がムヒカ元大統領のスピーチを聞けたのは、偶然ではありません。
国際交流や支援を目的とした、NGOピースボートがコーディネートをする「ピースボート」という世界一周の船旅だからこそできることです。
ピースボートでは、ムヒカ氏のような国際的なゲストが登場することもあります。
スピーチを間近で聞けるだけでなく、船内で一緒に生活したり、ふとした交流ができたり…
ここでしか体験できない出会いが、本当にあるんです。
「いつか世界を見てみたい」
「海外に行きたいけど不安」
「人生にちょっと立ち止まる時間が欲しい」
そんな想いを持っている方には、ぜひ知ってほしい旅です!
私自身ピースボートに3回以上乗船し、世界が広がった1人です。
現在、その経験をもとに体験談や旅のアドバイスを発信中です^^
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